去年の逃げ恥のブームで、世間に受け入れられつつある「高齢童貞」。
その名の通り、「けっこうな年齢の男性なのに、人生の中で一度も性体験がない」という事なのだけど、30歳まで守り通すと「魔法使いになれる」って話よね。
あたしの周りにはそんな控え目なタイプの人はいないから、高齢童貞なんて都市伝説と同じだと思っていたけど、29歳ぐらいの時に巡り合うチャンスがあったのよね。
出会ったきっかけはネットの掲示板(得意パターン)。
その当時、セクシャルマイノリティの友達が欲しかったあたしは、メールから少しずつ仲良くなりたいという趣旨にて、掲示板で募集をかけた。
その投稿にメールをくれたのが、魔法使いさん。
魔法使いさんはその当時35歳。
自宅で翻訳の仕事をしている知性派だけど、人とコミュニケーションを取るのが苦手らしく、社会には馴染めないとの事。
そんなわけで、家で一人でできる仕事を選んだらしい。
そういう仕事の選び方もあるのね。
ただ、翻訳の仕事はけっこうシビアらしく、生活も楽じゃないんだそうな・・
家もけっこう近所だったので、何回かメールのやり取りをした後に、駅前でお茶をしてみた。
魔法使いさんは35歳とは思えない「ピュアなオーラ」をまとっていて、魔法使いというよりは妖精ぽかった。
ちょっとだけ、80年代のアイドルみたいな雰囲気だった(男性ではなく女性アイドル)
社会に馴染めないとの事だったが、ちょっと挙動不審な感じで声も小さい。
とりあえず、近くの喫茶店でお茶をすることに。
あたしは魔法使いさんの翻訳の仕事について興味津々で、いろいろ聞いたのを憶えている。
「いつか家で仕事してみたい」とうっすらと思うようになったのは、魔法使いさんの影響かも(そして現在に至る)
魔法使いさんはと言うと、あたしの派手な男性遍歴について興味があった模様。
「信じられない」という体なのに、興味津々な雰囲気なのは「下ネタが気持ち悪い」と言いながらも、目が輝いている乙女のようだった。
あたしは魔法使いさんが魔法使いになった所以については、そんなに関心がなかったので、その話題についてはスルーでもいい気分だったのだけど、魔法使いさんは35歳になるまで経験がないことを気にしているらしい。
そして、やはり乙女のような眼差しで、実際の行為というものはどんなものなのか、あたしに聞いてくるのだった。
が、しかし・・さすがのあたしも昼間の喫茶店でそんな明け透けな話をする気にもなれず、とりあえず当たり障りのない返答をしておいた。
魔法使いさんは控え目にあたしのビッチぶりをディスりながらも羨望もあるようで、でも経験をするのは怖いらしく、この年齢までこじらせていたら、この人は生涯童貞を貫くんだろうなぁと思った。
けっこう年上だから、お茶代ぐらいは魔法使いさんがご馳走してくれるかと思ったけど、きっちり割り勘。
魔法使いさんは普段からあまり外に出ない人らしく、その後に何処かへ遊びに誘う空気でもないので、その日はそれで別れた。
その後、魔法使いさんとは何回かメールしたけど、噛み合うことなくやり取りは途絶えた。
魔法使いさんは性行為について興味津々だったけど、世の中には違う世界に行く一歩を踏み出さない人が本当にいるんだと、しみじみ思った出来事でした。